秋谷の木組 | House on Classical Elements

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現代テクノロジーと伝統知の融合

秋谷ヴィレッジ計画はスタートアップ企業モノクロームからの依頼で始まった。先端的なゼロエネルギー住宅は、運用時のエネルギー消費量を減らしてエネルギーを創ることができるが、高性能な製品や設備を使うことで生産時と廃棄時のCO2排出量が、一般住宅よりも増加することが多い。そこで物質循環に配慮して生産時と廃棄時のCO2の削減及び建物の長寿命化を目標とした。具体的にはコンクリートの使用量の約50%削減、生分解性素材の使用、木造伝統構法での建設を実現した。建築構成はパッシブハウスの基本的原則に従って、太陽エネルギーを最大限得る南面の片流屋根、日射取得の南面大開口、雨から外壁を守る張り出した軒を設け、土中環境に配慮した独立基礎の高床形式を採用した。風の流れを引き込み、海を望めるテラス、炎を楽しめる薪ストーブと窓辺のソファベンチを家の中心に据え、土、水、風、火の要素を結びつけた。

私たちはこれまで土中環境に配慮した基礎形式として、鉄板の独立基礎や鋼管杭基礎を木造建築に応用してきた。海岸近くの土地で塩害を防ぐため鉄ではなく、鉄筋コンクリート基礎を採用した。ベタ基礎はコンクリートの量が多く、その直下の土中に空気や雨水が浸透しないため、土に接する部分を減らした三又の独立基礎を設け、その頭を繋いだ基礎形状とした。ベタ基礎の半分程度のコンクリート量で建設した。軒先には樋を設けず、雨落ち部分には、竹炭、藁、落ち葉、枝が埋設され、1.5m間隔にある縦穴に節抜きした竹を入れて、雨が土中に浸透する(高田宏臣著『土中環境』を参考)。

外壁や軒裏の防火性能を確保するために、天然粘土鉱物バーミュキライトを原料とした調湿性のあるモイス(不燃材)、杉板(仕上材)、セルロースファイバー(断熱材)を用いて防火構造とした。産業廃棄物となるプラスターボードや糊で接着した合板は使用していない。調湿性材料を使うため気密フィルムを貼らない方法を模索した。気密フィルムを使って湿気を壁体内に入れない方針は合板やプラスターボードを使う在来構法に対して有効であるが、木ずりや小舞壁に土壁や漆喰などを使用した場合、気密フィルムが逆に調湿効果を阻害してしまう。株式会社デコス(セルロースファイバー製造元)の協力で透湿抵抗をシミュレーションし、冬夏ともに壁体内で結露する可能性は極めて低いことが検証された。断熱材にセルロースファイバーを選択した主な理由は、貫のある壁体内に断熱材を充填する場合に施工性がよく、調湿性があり、新聞紙をリサイクルした生分解性材料だからである。防虫のためホウ酸で処理されているが、土中環境を汚染したり、人体に悪影響を与えたりすることはない。構造スパンは2間以内で梁せいが大きくならず、どこの地域でも建設しやすいようにした。伝統構法の主要な柱は150×150mmで、四方挿しとなる中央の柱は180×180mmの杉材、他には910mmの間隔に120×120mmの貫孔が開けられた柱が配置される。南西側テラスの片持ちは木トラスで支持している。

このように近世以前の建設技術や生態系への知恵を組み込むことで、現代建築にはない独特な物質感と重さのある建築ができたと思う。(能作文徳+常山未央)