環世界の人文学

壊れゆく地球での生を創造する

温暖化や感染症など、生きる基盤である地球が揺らいでいる現代、人間の生の営みはどう変わるのか。本書は、哲学、文学、人類学、建築、歴史など、さまざまな分野の研究者たちによる、新たな人文学を拓く試みである。人間中心主義を換骨奪胎し、変転しつづける環世界と人間の関係を追う。

「生きる営みとは、いまの自分たちさえ生きていければよいというものではない。それは未来への責任を自覚して行動することであり、人文学の役割とは、そのために必要な歴史的事実・世界観・現状認識・思考方法などを提示することである。思考を重ねた結果、目の前に現れた未来の選択肢は、現在の我々の知性や感覚からすると、不自由な世界かもしれない。だが、それも現在の我々からみた偏った価値判断にすぎない可能性があるのである。現在の知性や感覚を越える未来の創造が求められている。」

はじめに

第1部 生の理論的考察

ユクスキュルにとっての〈環世界〉──人間・認知・外の世界………田中祐理子
ユクスキュルの「問い」と「方法」――円環と螺旋の自然学………松嶋健
イマージュ・アニマル──哲学的動物論と環世界………森本淳生
まなざしの環世界──「見る」と「見られる」のキアスム………立木康介
「人間以後」のエコロジー哲学………篠原雅武
震災後文学の動物と書き直し──中森明夫、川上弘美、古川日出男のテクストを中心に………ホルカ・イリナ
人間が「ごみ」になるとき──ベケット的想像力のゆくえ………大浦康介

コラム1 ライプニッツの種の概念と、不滅に向かう世界について………山崎明日香

第2部 生の諸世界

あらたな環世界をひらく──そして人類学者は腹を下す………松村圭一郎
多元世界としての森を生きる──インド・西ガーツ山脈における自然保護と在来性………石井美保
太陽・土・廃棄物──絡まり合いとしての建築………能作文徳
食現象の脱領域的考察──分解の円環の中で………藤原辰史
神・米・霊魂──柳田國男と折口信夫の循環論………岡安裕介
粘菌鏡検──南方熊楠による「世界一般」への潜入………唐澤太輔

コラム2 ゾンビの軌跡………田中雅一

第3部 歴史にみる生の実践

地域環境史の自然観論──琵琶湖産フナ属のコード化をめぐって………橋本道範
食糧危機は天災なのか──日本近世の飢饉研究の新視点………武井弘一
たたら製鉄と百姓成立──近世百姓の生業を考える………岩城卓二
村のいしぶみから見た生活用水をめぐる日常史──中国河南・山西・河北の井戸とため池の事例をもとに………井黒忍
過去を生きた「病む身体」──病をめぐる学生との対話の記録から………池田さなえ
炭坑化する世界──空気を満たすテクノロジー………瀬戸口明久

コラム3 溶ける主体──環世界のデカダンス………近藤秀樹

あとがき
研究会の履歴
著者略歴